育児してなきゃ酒浸り日記

30代のサラリーマンです。2人の息子と妻との日々を書いています。只今育休中です。

『イクメンを疑え!』を読む。ちょっと独特なイクメン研究本…?

その神話は いま、解体される――。 『クレイマー、クレイマー』などの人気映画にひそむ罠とは? 新進気鋭のアメリカ研究者が「イクメン」の文化的イメージを斬る!! ----- 日常のいたるところで濫用され、消費されている「イクメン」という表現。本書は、自身も子育て中のアメリカ研究者が「イクメン」という言葉そのものに疑義を抱くところから始まる。 日米の保育史と実情を比較するとともに、『クレイマー、クレイマー』や『幸せのちから』をはじめとした誰もが知る映画、雑誌、小説、ビジネス書など、「イクメン」がテーマの日米(英)作品の文化的イメージを分析。その言説が新自由主義と手を組んで「男性の育児」をあくまでビジネス的な観点から評価し、「女性の育児」と区別している事実に迫る。 2022年10月から改正育児・介護休業法により「産後パパ育休」が施行され、23年4月からは育児休業取得状況の公表が義務化。「イクメン」という言葉の流布から10年以上が経ち、再び注目されるキーワードになった今こそ、その意味を構造的に問いなおす。無批判に「イクメン」文化を受け入れてきた日本社会に対する、強烈なカウンターオピニオン! 紹介文より

少し前に『イクメンの罠』という本を読んだけど、似たようなタイトル。ただ、『イクメンの罠』が著者の理想の父親像を書いているような内容であるのに対し、本著は主に日本とアメリカの保育事情を比較しながら、双方のイクメンイメージを分析しており、内容も全く異なっている。

著者がアメリカ中心に研究していることもあり、新自由主義イクメンを絡めたり、アメリカ映画とイクメンの分析をしている。他の書籍ではなかなか扱わないような視点での育児本で、とても新鮮だった。ただ、『クレイマー・クレイマー』や『幸せのちから』などの映画分析にページを割きすぎじゃないの?とは思った(P67~143と、70ページ以上)。映画好きの人ならいいけど、かなり癖の強い内容のように思う。嫌いじゃないけど。

新自由主義(すべての個人が経済の指標で図られる。また、自己責任の考えが強い)に基づくアメリカの保育園事情についてはとても興味深く読んだ。海外と比較して日本の男性育児は遅れている!という言論があるけど、アメリカは新自由主義に基づく、ある意味で救いのない状況下で保育園を使わない・母親以外の家族が育児参加をせざるを得ないという状況にあるというのは興味深い。日本の育児制度や保育制度は補助が充実しているけど、それでも米国的な新自由主義の影響が日本にも浸透し、民営化の波による質の低下が起こっているとのこと。そういう視点はなかったが、直近の保育園の不祥事などについて、こういった事情が少なからず影響している事に触れている。

最も興味深く、一方でやや「?」が残ったのが第7章「ビジネススキルとしての育児」である。昨今の男性育休は、ビジネススキルの向上や、将来の出世のためにエリート層が取得する場合が中心になっているとのこと。その根拠として、最近の男性育休関連本では、ビジネススキル向上に触れられているものが多いとのこと。

これについては半分賛同できるが、半分反論したい気持ちになる。確かに、「育休のおかげでビジネススキルの向上に繋がった!」とか、「マルチタスクが求められる子育ては、ビジネススキルにも有効です!」とか言う体験者の声はよく見受けられる。個人的にはそのような意見が異様に多いことにやや気持ち悪さを覚えていたし、そういうことを期待するために育休とるの?と思いたくなる。その点を著者が同じように指摘していただいたことにニヤニヤした。一方で、そういうふうに前向きに捉えないと育休取得になかなか踏み切れないのが20~40代の働きざかりの男たちであり、悲哀というかお恥ずかしい生物なのである。その点を著者はどこまで考慮してくれているだろう。正直、筆者はやや短絡的に受け止め過ぎというか、「ビジネススキルに役立つという物言いが目立つように、男性育休はエリート層ばかりに集中している!」とか言うよりも、育休取得者の世代がちょうど仕事で最も脂が乗っている時期であり、層に関係なくそういう表現が一番育休取得の理由付けとして響きやすいってだけだと思うのですが…俺の捉え方違うのかな。あと、男性育休は、以前までは出世コースから外れることであったが、今は逆に出世コースに勝ち抜くために取得されると書いている。これについてはあべこべな気がした。男性育休取得に関するアンケートでも、評価に響いたり同期から遅れを取るのが不安、とか、同僚からの冷たい視線が怖い、といった意見がかなり多いわけで、むしろ出世コースから外れることを危惧しているのは今も昔もそんなに変わらない気がする。著者が想定しているのは、小泉進次郎的な本物のエリートのような存在の育休取得をイメージしているのかもしれないけど…そんな人はそこまで多くないんじゃない?と思った。少なくとも俺は出世を諦めた気分で育休を取得したので、著者の記述はあまりピンとこなかった。私の育休取得の動機が時代遅れ、と言われたら何も言えないけど。

 

以上、いろいろ疑問点はあったが、男性育児について新しい捉え方をしており面白く読ませていただきました。