育児してなきゃ酒浸り日記

30代のサラリーマンです。2人の息子と妻との日々を書いています。只今育休中です。

私達の多くが「バーンアウト」する時代は、目の前にきているのかもしれない。(育休125日目)

 

育休中、漠然とした不安にモヤッとする日々。育児家事はするんだけど、このままでいいのだろうか?という焦燥感がなかなか落ち着いてくれない。どうしたものか。

 

夜遅くまで起きる生活を改めようと、昨日は21時に息子たちと同じタイミングで寝る。寝不足が溜まっていたのか、途中で起きること無く眠った。たくさん寝たおかげで頭はスッキリしている。やっぱり睡眠は大事だね。

 

読書日記ではないけど、最近いろいろ本を読んでいたので、今日もそちらを書いてみます。今回読んだのは『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』です。

 

バーンアウト文化への処方箋
「燃え尽き(バーンアウト)症候群」は仕事への不満やストレスを語るときの用語として流通しているが、その意味は正確に理解されておらず、激務の疲労や仕事への絶望に苦しむ労働者の役に立っていない。本書は、大学教授の仕事に燃え尽き、寿司職人やコインパーク管理人として生計を立てていた異色の経歴を持つ著者が、なぜ過酷な仕事に高い理想を持つのかを歴史的・心理学的に分析し、燃え尽きを解決できた個人やコミュニティーを明らかにする。

本紹介より

 

この本は、有名なブロガーさんの記事で興味を持ったので読んでみた。

huyukiitoichi.hatenadiary.jp

 

本紹介は私よりも上記の記事を読んでいただくのが有益だと思うけど、自分でも整理のつもりで書いてみる。

 

 

バーンアウト(燃え尽き)症候群とはなにか?

そもそも、バーンアウト(燃え尽き)症候群ってなんだろう?本書内では、「仕事に対する自身の理想と現実のギャップを埋めるために無理を重ねた結果」と明記している。なお、家事育児などは含めていないことは筆者もあえて記しており、ココでは仕事に限定している。

 

実はこの定義の問題は結構重要だ。なぜなら世の中にはバーンアウトの言葉の意味が曖昧で、人によって異なるニュアンスで使われているからだ。多分、これって、うつ病もおんなじだろう。「なんかうつっぽい」という同じ感じで、「最近、燃え尽き症候群ぎみなの」と使っている人も多いのでは。むしろバーンアウトを美徳(頑張っちゃってるオレ)のように話す人もいるが、それは理想を追い求められているポジティブな状態であり、この本の記す範囲ではない。

 

バーンアウトしている状態とは

筆者はバーンアウトを捉えるにあたり、竹馬を例にしている。

 

あなたはいま竹馬に乗っている。そして、左手に理想、右手に現実を握っていると考えてほしい。この状態の中で、もしも理想が現実からだいぶ離れてしまったらどうなるだろうか?苦しい状態だけど踏ん張ることができている?それとも耐えきれずに崩れてしまう?それとも竿から降りて竹馬をやることをやめてしまう?上記のいずれかに当てはまるのではあれば、あなたはバーンアウトの可能性があるバーンアウトは白か黒のように明確に線引きできるものではなく、状態によってスペクトラムに捉えるものと筆者は述べている。

 

なお、バーンアウト中の人に起こる症状は3つである。

消耗感(疲れ切っている感じ)

シニシズム(脱人格化。冷笑的に世の中を見てる感じ)

有能感や達成感の低下(オレはだめなんだなと思う感じ)

 

そして、上記の基準をもとに、バーンアウトスペクトラムは大きく5つに分けられる。

バーンアウトしていない

理想と現実の乖離が少ない状態→問題ない(エンゲージしている状態)

 

 

以下はバーンアウト状態である。

②無理のしすぎ

理想が現実と離れており、現実に身を置きつつ理想にしがみついている状態。(消耗し、無理をしている状態)

シニシズム

理想が現実と離れており、理想を捨てて妥協した現実を受け入れる状態(「夢を追うなんて馬鹿らしい。仕事なんて程々にやってればいい」って感じ?)

④失望

理想と現実が離れており、現実を放棄し、理想だけ維持している状態(現実的なことには向き合わない、理想だけを言っている状態。「オレはもっとクリエイティブな仕事だけがしたい。現実のくだらない仕事はしません」って感じ?)

⑤完全なバーンアウト

理想と現実が離れており、理想と現実を手放す状態(空虚な状態。最悪の状態)

 

どうだろうか。こうやってみると、筆者が言うバーンアウトというのは思ったよりも身近な存在であることが想像できる。

 

なお、とある医療施設の状態を調査したところ

①バーン・アウトしていない 40~45%

②無理のしすぎ 15%

シニシズム 10%

④失望 20~25%

⑤完全なバーンアウト 5~10%

 

だったらしい。自分の部署を思い返してみると、あの人は②、あの人は④か、なんて思ってしまった。どの職場にもいそうな人たちではないだろうか。

 

バーンアウトの原因

先に述べた通り、バーンアウトは「仕事に対する自身の理想と現実のギャップを埋めるために無理を重ねた結果」としている。では、なぜ私達はバーンアウトしてしまうくらい、無理をしてしまうのだろうか。この点について、筆者は主にアメリカの労働史によって説明する。多分、これは日本も対して変わらないと思われ興味深かった。

 

私レベルの理解で簡単に書くと、元々労働というものは理想を抱くようなものではなく、賃金をもらうための手段だった。それが産業の工業化に伴い、労働を管理する者たちの必要性が増える。その管理者達の労働者をコントロール・選別するための手段として「労働の中に尊厳」という「高貴な嘘(為政者が全国民を説得する(納得させる)ために用いる作り話・虚構)を浸透させていく。そして「仕事に没頭する」「仕事を通じて自己実現」という仕事だけで自らの尊厳を達成するという「トータルワーク」の考え方を醸成していった。

 

仕事を自分の価値を証明する手段ととらえる社会では、労働者は自らをバーンアウトなどの身体的、精神的リスクにさらしながら、勤勉に働く。だかそんな彼らの働きで得をするのは上司や資本家だ。少なくとも労働者の職務遂行能力が衰え、生産性が低下するまでは、その利益は彼らに転がり込む。また、たとえ労働者の生産性が下がっても、代わりの労働者はいくらでもいるため、自分の尊厳を証明したい従業員たちを使い捨てても、そのコストは比較的小さくてすむ。

本書 P177より

 

別に「トータルワーク」それ自体が全て悪いというわけでは無いように思う。働くことに全身で喜びを感じる人(時期)もあってもよい。しかし、もしも無意識のうちに「仕事に生きがいを感じなければならない」「仕事で自己実現しなければならない」と必死に思い込もうとしている人は、それは誰かから暗黙のうちに生み出されている考え方であることを認識したほうが良いのかもしれない。

 

なお、年齢によってバーンアウトのしやすさがある。ベテランほど当てはまりそうな言葉だと思っていたが、現実的には若い人ほどバーンアウトし易いとのこと。新人が体感する「5月病」ってまさにそんな感じかな。

 

筆者が提示するバーンアウトへの向き合い方

バーンアウトに対する筆者の解決案は明瞭で、労働に対する期待や理想を下げること、仕事以外のことに向き合い、社会が当たり前のように作り出す「高貴な嘘」を拒絶するということを一貫して主張している。

仕事は私たちに尊厳を与えるものでもなければ、私たちの人格を形づくるものでも、生きる目的を与えるものでもない、ということを人々が理解する一助になってくれることを願っている。

はじめに より

 

筆者自身、大学教授として仕事に高い理想と誇りを抱いていたが、それが打ち砕かれるとともにバーンアウトしてしまう。自らに生じたこの状態はなにか?そしてその原因が何だったのか?を追求するためにこの本を記している。その筆者がだした結論が、仕事を生きがいにするな、ということである。

 なお、本を最後まで読んでも、「バーン・アウトしないための10の思考法」などと言ったハウツー的な情報はないので、そういう内容を期待して読むべきではない(筆者自身、バーンアウトという言葉の曖昧な使われ方が蔓延していることを指摘しており、無闇な解決法に踏み込むことをたしなめている)

 

そもそもバーンアウトは個人の能力によって生じる問題というよりも、私達を取り囲む社会全体の文化によって多分に影響を受けていると考えているので、ハウツー的なテクニックで対応するものでもないようだ。

 

 

なお、この本の随所で警告していることがある。それは、目の前で大きな動きを見せているAI技術の発展に伴う自動化により、わたしたちの多くは、仕事における理想を失う可能性が大きいということだ。それはつまり、更に無理な理想を追い求めることになったり、理想を失って現実だけが取り残されてしまう状態に陥りやすいということで、バーンアウトが更に拡大することを示唆しているのかも知れない。

 たしかに、人間ではなくロボットは資本家にとって最高の労働力だ。だって、「文句も言わない」し、「自主性とか理想とかめんどくさい事を語らなくてもセッセと動いてくれる」し、「ワークライフバランスなんて気にしなくてもいい」し、電池が切れるかも知れないけれど、充電すれば「バーンアウトもしない」しね。

 

 

感想

最後まで読んで、なるほどなあ、と思う一方、すべてにうなずききれないところもある。筆者の提示する「仕事に理想をいだくな」という案が、良くも悪くも救いがない気がしてしまうからかもしれない。そもそも、「仕事に理想をいだくな」って、筆者が述べているバーンアウトのうちの「シニシズム(脱人格化)」とあまり変わらない気もするのだが…。私の認識が足りなかったら申し訳ないけど。

 

 組織の中にいると、「みんなが経営者としてのマインドを持とう」とか「あなたの問題意識が組織を変える」という言葉が当たり前のように使われているけど(うちの会社だけじゃないでしょ?)、こういう言葉を無視してホドホドに仕事をする向上心のない従業員は「使えないやつ」「言うことを聞かないやつ」ということになる。うちの部署にもこういう人は少なからずいるけど、なんか扱いづらい感じがある。私も「そっち側」に行こうという誘惑に駆られることもあるが、なんとか「こっち側」にとどまらないと…としがみついている感じ。あ、これって筆者の言うところの「無理のし過ぎ」状態なのかな…?

 バーンアウトを予防するために、自分も同じように仕事を理想にしない働き方をすれば楽になれるのかもしれない。だが、そうなると、私達は組織の中で生きづらくなってしまうわけで…俗に言う「働かないおじさん」と揶揄されてしまう気が。

 今まで仕事に生きがいを感じることが多かったし、組織に所属する以上、もっと仕事で成果を出して頑張りたいと思うのは健全だと思っている。健全、などという言葉を使うこと自体、私は「高貴な嘘」に染まり切っているのかもしれないが…。

 

 この本の通りに実践することは難しい面もある。ただ、この「仕事を理想をいだくな」という考え方を「バーン・アウトしないために」という切実な理由で考えると、きっと本当に追い込まれてしまっているときに心の支えになってくれる気がする。また、自分自身がバーンアウトしている状態なのかどうかの自己診断を行うためにも、今の少し余裕があるタイミングで読んでよかったかもしれない。多分、本当にバーンアウトしてしまったときは、この本を読む余裕なんて無いかもしれないしね…。

 

少し先の未来で、私達にとってバーンアウトはより身近な存在になっているのだとしたら…?日々、ChatGPTの技術の凄まじさに触れたり、やたらと流れてくる人工知能関連のニュースをみるたびに、決してありもしない未来ではないんだろうなと思うのであった。