育児してなきゃ酒浸り日記

30代のサラリーマンです。2人の息子と妻との日々を書いています。只今育休中です。

人間関係について真剣に考える『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』を読んで

今週のお題「一生モノ」

 

『グッド・ライフ』という本を読む。一生モノの本。

 

最初はAudibleだけの耳読書だったけど、半分くらい読んだタイミングで「あ、これは大事な本だ」と確信し、Amazonで本を注文した。Audibleで聴いた後に、あらためて本を買ったのは今回が初めて。それほどにインパクトの大きい本だった。

 

 

幸福な人生を送るために必要なものは何か?その問いに対する答えは、「富」や「名声」ではなく意外なくらい身近でありふれたものだった。ハーバード大学による、84年にわたる史上最長の研究が解き明かした健康で幸せな人生を送る鍵―それは「よい人間関係」。

本紹介より

 

正直、本の前知識は全く無く、Audibleのおすすめで出てきたので軽い気持ちで再生してみた。本のタイトルはあまり好きな感じではない。なんかお説教臭い識者がしたり顔で「幸せとは」と語る内容なんじゃないかと思った。嫌な感じだったらすぐに再生するのをやめようと思っていたのだが…。いい意味で裏切られた。

 

せっかくなので、この本の紹介を書いてみる。

 

 

本書の主張

本書で最も主張したいことは以下の通り。

八四年にわたる本研究や他のさまざまな研究の知見をもとに、生きるためのたった一つの原則、人生において投資すべきたった一つの事を集約すると、次のようになる。

健康で幸せな生活を送るには、よい人間関係が必要だ。以上。

P18より

 

人が幸福になるためには何が必要だろうか?

お金?名誉?健康的な食生活?人生を捧げられるような価値の有る仕事?

それらも必要かもしれない。しかし、絶対条件ではない。筆者は様々な研究をもとに、身体の健康、心の健康、長寿との関連性において、際立って決定的な因子を見つけ出した。それが「良き人間関係」というわけである。

 

なお、本書はAudibleで15時間30分。書籍で約400ページである。そして、最初から最後まで、「人間関係」が人の幸福に与える影響の大きさを説明している。

 

「幸せな生活をしたければ、人間関係を大事にしな、だって?おい、こんな誰でも言えることをえらそうに長々語るなよ。こんなの幼稚園児でも知ってるわい。よっぽどの暇人か、コミュ障が読む本だろ」

 

と思う人もいることだろう。

確かにこの本が主張していることは、「幸福を語る上で人間関係が何よりも大事」、というシンプルなことだ。しかし、この本がそこらへんの自己啓発本と決定的に違うのは、その主張を裏付ける筆者たちの『成人発達研究』の成果にある。

 

成人発達研究とは

筆者たちが行っている「成人発達研究」とは、1人の人間の生涯を追跡し、観察・分析する研究である。

 2年毎に研究者が対象者に大量の質問票を送ったり、対面調査を行って質問を行う。また、単純なアンケートだけではなく、血液や脳画像などの情報も入手し、客観的な個人データも蓄積させる。他の社会科学系の研究と異なるのは、この研究手法が「現在の情報」にこだわっていることだろう。他の社会科学系の研究が同様の研究を行う場合、当事者の回想に基づいて情報を集めることになるが、回想から得られる情報は正確性に欠けるものにならざるを得ない(10年前の事を今語っても、当時のことなどまるで覚えていない。それどころか、都合の良いように記憶を捻じ曲げてしまう)。しかし、筆者らの成人発達研究の場合、常に「現在の情報」を入手するため、情報の精度は高くなる。

 もちろん、言うまでもなくこの研究手法は非常に根気が必要となる。被験者が必ずしも長期に渡る研究に付き合ってくれるとは限らない。実際、様々な理由で連絡が途絶えてしまうことも少なくないらしい。同様に、研究者自身も途中で別の研究テーマに移ってしまうこともあるようだ。

 筆者たちのハーバード成人発達研究では、何代にも渡って同じ被験者を追跡調査している点で、他に類を見ない。ちなみに、その追跡年数は出版段階で84年(!)であり、筆者らは4代目の責任者たちらしい。そして、被験者も数千人を超える大規模なものとなっている。

 

そんな被験者から得た情報を元に、「幸福の条件」を調べてみると、人間関係を重視している人ほど健康面やメンタル面で良好な成績を残していたというわけである。

 

ちなみに、筆者はTEDトークで歴代トップ10に入る名プレゼンを残している。

 

www.ted.com

 

 

印象に残ったポイント

 本書では、様々なデータに基づいて人間関係の重要性を説いている部分もある。だが、どちらかと言うと、様々な被験者の人生を具体例としてたどりながら、読者の共感性に訴えるように説明している。筆者の目論見通り、この被験者の人生が自分自身と重なることも多く、より一層、本書の内容が心に響くものとなっている。文章も様々な立場の人の気持ちに配慮した優しい文体であり、多くの人生をのぞいてきた筆者だからこそなのだろうと思う。

 また、筆者の幸福に関する記述が金言に溢れていて、付箋をたくさん貼りたくなった。一部を紹介しよう。

 

多くの人にとって幸せな人生を送ることは重大な関心事だが、現代の多くの社会にとってはそうではない、ということだ。今日、人々はさまざまな社会的、政治的、文化的優先事項がせめぎあうなかで生きているが、なかには「幸せに生きること」にはほとんどつながらない事柄もある。現代社会では、人が幸せに生きること以外の事柄が優先されすぎている。

P42

 

人間関係の価値は一定せず、数値化しにくいが、お金は数えられる。仕事の成果は履歴書に書けるし、SNSのフォロワーを増やしてくれる。数値として目に見えるものはときめきを与えてくれる。あの古い脳の反応がもたらす快感だ。人生を歩むうちに、目に見えるものがどんどん積み上がっていく。ゆえに、追い求める理由を深く考えず、目標に据えて邁進してしまう。やがて、文化の影響下での幸福の追求が、自分や他者の人生にポジティブな影響を与えるというレベルを超えてしまい、目標の追求自体が目的化してしまう。追い求めることの中身はどうでもよくなり、ひたすら生活水準の向上を求める堂々めぐりの競争に陥ってしまう。

P52

 

幸せな人生を歩んでいくには、どうすれば良いのだろう?まず、幸せな人生は目的地ではないと認識することだ。幸せな人生とは道そのもの、道をともに歩く人たちそのものだ。

P360

 

他にも、人間関係は筋肉と一緒で鍛えないと衰えてしまうという「ソーシャルフィットネス」という考え方、仕事の人間関係も重要であるとする考え方など、いちいちナルホドと思う内容であった。

 

なお、本書では、「人間関係を良好にするコツ」なるものはあまり書かれていない。一部、人間関係の問題を解決するための思考ステップである「WISERモデル」を紹介しているが、これ自体は真新しいものではなく、そこまで響くものではない。具体的な人間関係のためのコミュニケーション方法は、別の本で学ぶ必要があるだろう。しかしまあ…この類の本となると、『一瞬で相手の心をつかむ話し方』とか『◯◯式コミュニケーション術』と言ったような、忌々しい感じの本がドッと溢れかえってくるので悩ましいところであるが…。

 

最後に

 私にとって「本当にいい本」と言うのは、めちゃくちゃ面白い、とか、感銘を受ける、という感想で終わるのではなく、実際に私自身に行動を起こさせる本ではないかと思っている。その点において、この『グッド・ライフ』はまさにそういった本であった。

 

 少し前に、妻から古い友人に電話をかけることを勧められたのだが、いつもならば「めんどくさい」と一蹴して電話をすることはなかった。しかし、この本を読んだことで「そうだね、かけてみよう」という気持ちになったのである。人付き合いに難がある私を突き動かしたのだから、この本の影響力は凄まじい。

 年を取れば取るほど、自分のルールが構築され、本や人に影響を受けて行動を変えることは難しくなってくる。私自身、二十歳前後の頃のように「これは運命的な本だ」と感じることも殆どなくなったし、人の言うことも受け流してしまうことも増えている気がする。しかし、この本は、久しぶりにフレッシュな気持ちを思い出させてくれた。本棚において、また読み返してみたい。その度に新しい発見がありそうな期待もある。もちろん、最終的には「人間関係って大事!」と思うのだろうが。

 

 

すでに人間関係の重要性を理解している人にも、私のような人間関係をあまり大事にしてこなかった人にも、何か新しい発見がありそうな本。おすすめです。