育児してなきゃ酒浸り日記

30代のサラリーマンです。2人の息子と妻との日々を書いています。只今育休中です。

「家庭とは不潔なもの」は褒め言葉? 『すばらしい新世界』を読んで

 

雨なので、午後は二太郎を部屋で抱っこ。

抱っこ紐で支えた後、はんてんを逆に着て包み込むようにして抱っこするとよく寝てくれる。

 

 

両手が空くので、本を読む。『すばらしい新世界』をようやく読み終えた。

 

 

今更紹介するまでもない名作。学生の頃からずっと読みたかったけど、ようやく読み終えることができた。

 

西暦2540年。人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の配給によって、人類は不満と無縁の安定社会を築いていた。だが、時代の異端児たちと未開社会から来たジョンは、世界に疑問を抱き始め……驚くべき洞察力で描かれた、ディストピア小説の決定版!(『BRAVE NEW WORLD』改題)

本紹介より

 

本書の人間社会は、例えるならば「瓶の中に収めたアリのような世界」として表現されている。具体的にどんな世界か?簡単に書くと、

少数の統率者の元で遺伝操作・人工的な生殖、固定的な社会階層の構築、条件付けによる信念や価値観の刷り込み、無害なドラッグ「ソーマ」によって悩みや苦しみを喪失

といった感じ。

 

最も有名なディストピア小説の1つ。もはや古典の部類であろう。読んでみると、あらゆるSF小説の基礎となっているように感じる。ストーリー自体は大きな展開を見せること無く、淡々と進んでいく感じ。それでも退屈すること無く、最後まで読み進めることができた。

 

この小説で描かれた世界は圧倒的に「安定化」を追求したものである。そのために芸術を捨て、宗教を捨て、そして科学を捨てた。安定化した世界では芸術は理解できないのだ(芸術は常に不安定な状態で生まれる)。安定化した世界では、悩みや不安に救いや意味を求めないので、宗教は不要なのだ。必要なのは、副作用のないドラッグによる開放なのだ。安定化した世界を持続するためには、争いや競争もなくさなければならない。そのために科学の発展を止める必要があった。ただし、代償として進歩も無くなった。

 

この本の世界は、言うなれば「一定程度幸せな状態で安定化した世界」ということになる。これはある意味ではユートピアっぽいが、やっぱりディストピアに感じてしまう。でも、なぜだろう?

 個人的な感想だけど、人間には、どんなに大きな幸福でも不幸でも、いずれその状態に慣れてしまう性質があるからではないだろうか。宝くじに当たったり、誰もが羨むような成功をおさめたりしても、その幸福はすぐに慣れたものになり、新たな富や名声を渇望してしまうようになる。一方で絶望的な境地になったとしても、その状態にいずれ慣れることで、また前に進めるようになる。つまり、その時の幸福度がいつのまにか基準(0)になってしまうのだ。

 その点で考えると、『すばらしい新世界』は、一見すると幸福な世界だが、結局は幸福度「0」の世界(言い換えれば「無意味」な世界)に感じてしまうのではないか、と。やはり幸福度の増減を感じながら生きることが、意味ある世界なのだと思うのですね。

 

すばらしい新世界』は、今のところはありえない世界である。ただ、現代科学を持ってすれば、そこまで不可能な感じもしないのが絶妙である。現実世界も、いろんな思惑が重なり、少しずつ『すばらしい新世界』に向かっているのかな…?そんな事を考えるとちょっと怖くなる。

 

www.youtube.com

 

ユーチューブだと日本語で検索してもあまり出てこないけど、原題『Brave New World』で検索すると色々出てくる。やっぱり海外では有名なんだな。

 

 

どうでもいいけど、小説の世界では、子供は完全に人工的(機械的)に誕生することになるため、家族というものが存在しない。それどころか、性交で生まれた子供は野蛮人という扱いになる。「母親」というのは非常にいかがわしい言葉になっているし、「家庭」というのは吐き気の催す存在となっている。その描写がひどすぎて面白かった。

 

家庭とはこういうものだーーいくつかの狭い部屋で、男と、ときどき子を孕む女と、いろいろな年齢の雑多な男の子や女の子が窮屈にがやがやと暮らす過密空間。酸欠になりそうなほど狭苦しい、消毒不十分な監獄。闇、病気、悪臭

オルダス・ハクスリーすばらしい新世界』P54より

 

そして家庭というものは物質的にだけでなく精神的にも汚いものである。精神的な兎の巣穴だ。糞だらけで、ぎゅう詰めの心どうしがこすれて熱を発し、感情の悪臭が漂う。家族という集団構成員間のなんという息苦しい親密さ、なんという危険で常軌を逸した猥褻な関係!気でも狂ったかのように自分の子供たちを抱える母親(自分の子供などというのがそもそもおかしい)……

オルダス・ハクスリーすばらしい新世界』P55

 

”お父さん”という言葉は、”お母さん”ほど猥褻ではないーー出産という嫌悪を催す不道徳なものから一段階離れているので、ポルノグラフィックというよりスカトロジックな下品さを持っているだけだ

オルダス・ハクスリーすばらしい新世界』P217より

 

これは、筆者が家庭というのは、ディストピアとは対極的ないい意味で「不安定」な存在ということを示しているのかな。そうすると、家庭に向き合うことは『すばらしい新世界』から遠ざかるための有効な手段である、と、筆者が言ってくれているように思われ、勝手に勇気づけられたのでありました(曲解だったらごめんさい)。

 

 

明日からも家事育児に向き合っていこう。『すばらしい新世界』を読んでこういうふうに思う人間は少ないだろうな(苦笑)