育児してなきゃ酒浸り日記

30代のサラリーマンです。2人の息子と妻との日々を書いています。只今育休中です。

遺伝の不平等は利用する?無視する?それとも是正…? 『遺伝と平等』を読んで

 

月曜日。晴れ。

 

ゆったりとした平和な1日。

少し前から読んでいた『遺伝と平等』を読み終えた。

 

「親ガチャ」を乗り越えろ。最先端の遺伝学の成果は、あなたの武器になる。
遺伝とはくじ引きのようなもの――だが、生まれつきの違いを最先端の遺伝統計学で武器に換えれば、人生は変えられる。遺伝と学歴、双子の研究をしてきた気鋭の米研究者が、科学と社会をビッグデータでつなぎ「新しい平等」を指向する、全米で話題の書。サイエンス翻訳の名手、青木薫さんも絶賛する、時代を変える一冊だ。

本紹介より

 

 

本の原題は『THE GENETIC LOTTERY』であり、直訳すると「遺伝くじ」となる。おそらくこんなワードを聞くと、あの「親ガチャ」を思い出す人も多いことだろう。まさにこの本は親ガチャで思い出される「遺伝によって定められた生まれながらの不平等」を記している本である。今更だけど、こういう言葉は日本だけじゃないのね。

訳者は私の学生時代からのファンである青木先生。『フェルマーの最終定理』や『新ネットワーク思考』はかなりハマりました。

 

【メモ】

・人間が持って生まれた能力は、遺伝によって影響を受ける。それは身長や体重、容姿のように目に見えるものだけではなく、学業、性格、活力のように目に見えないが重要とされる多くの特徴まで幅広い。

・持って生まれた能力の差は遺伝によってある程度定められているが、その程度についても、少しずつ技術の進歩によって可視化されるようになってきている。

・筆者の研究(ポリジェニックスコアを用いた最先端の研究)では、遺伝が個々人の教育レベルに与える影響は、「親の所得が子供の最終学歴に与える影響」レベル程度であるとする。私達が後者の影響に対する不公平感を日々感じている事を考えると、遺伝の影響力は大きいと言えそう(これは人に寄って感じ方が変わるだろうが)。

 

・一方、遺伝によって生まれながらの不平等があることは、研究分野に置いてはタブー視されてきた。理由は優生学(「優良な遺伝形質」による人々の向上を目指す学問、思想・哲学・運動、疑似科学などを指す言葉)に結び付けられやすいから。優生学が犯してきた過ちに対抗するために、歴史は遺伝の影響をあえて無視する考え方を新たな基本スタンスとして定めてきた(ゲノムブラインド)。

 

・しかし、ゲノムブラインドでは、前述のような遺伝の影響力を考慮しないために、本質を捉えない議論や研究や思想が増加することになる。例えば「格差があっても努力をすればなんとかなる」とか「できない、依存症になる、デブは言い訳」とか「私にもできたんだからアナタにもできる!努力は裏切らない!」とか「生活保護になるような奴らは生きる価値のないゴミ」とか「◯◯をすることで誰でも思考力を向上できる」とかだろうか。

 

・筆者は遺伝に対する社会のあり方について、「優生学(遺伝における優劣の正当化)」「ゲノムブラインド(遺伝をみない)」だけではない、新たなあり方を提言する。それがこの本の趣旨である「アンチ優生学(介入による公平性)」の実現である。それは、遺伝的に不平等な条件で生まれたものに対し、社会が何らかの介入を行い、持たざるものが社会でも不平等を感じることが無いようにする社会である。

今の社会は、特定の「持つもの」が有利に働く構造になっており、「持たざるもの」が生まれながらに不利な条件を課されている。その是正に努めるということである。

 

【感想】

遺伝に関する専門家ということで、非常に慎重な語りであった。その分、やや文章が回りくどくも感じたが、遺伝というセンシティブなテーマについて書く場合、これくらい慎重じゃないといけないのかもしれない。

一方で、GWASのような日本発の遺伝分析手法の解説は、この難しい理屈をここまで噛み砕いてくれるのか(そして、こんなにページを割いて説明してくれるのか)と、ちょっと感動。良い科学系の本である(私の指標ですが)。

 

なお、本書は、決して「遺伝が人間のすべてを決める」といった乱暴な決定論ではない。むしろ遺伝の影響は絶対的なものではなく、環境との相互作用によって変化するものであるとする。また、遺伝情報通りに行かないパターンも数多く存在していることも丁寧に説明する。

それでも、遺伝が与える不平等さは確かに存在している。そして、この世はこの不平等な中で、「持つもの」が有利になるように作られている。この主張は一貫していた。

 

昨今、SDGsやらダイバーシティなどと言った言葉が当たり前のように使われるようになっている。一方で、こういった言葉が乱用されることで、ネット上では無用な言葉の争いが生まれることも多い。そのため、こういった言葉がなんとなく軽薄化しているような傾向にあるように思う。しかし、なぜ公平性を求めるような考え方が広まってきているのか、今回の本は、その根本にある研究成果のように思われ、大変興味深かった。ナルホド、確かに公平性に基づく多様性、大事なのかもしれない。

 ただ、筆者が主張する「アンチ優生学」が広く浸透するには、多くの抵抗要素が存在するんだとも思う。それこそ、さっき示したような優生学やゲノムブラインドの価値観で利益を得ている集団で作られている世の中だからこそ、である。

でも、社会のあり方も固定的なものではなく、時代ごとに変化しうるものなので、近い将来、筆者が主張するような世界が広がっていくのかもしれない。そんな時、私達も柔軟に考え方を変えていく必要があるんだろう。遺伝に関する議論は、今後ますます増えてくるだろうし、避けては通れなくなるだろう。その時、私たちは新たに発生する諸問題に立ち向かわなくてはならなくなるだろう。どんな問題が発生するだろう?読後もそんなことをいつまでも考えてしまう。なんとも影響力のある本である。

 

 

育児の流れで遺伝について興味を持ったので読んでみたけど、想像とは違う興味深い世界を味わえた。なんかダラダラ書いてまとまりのない感じになってしまいましたが、今後、何度も本の内容を思い出して悶々としたくなりそうな、とても重要な本だと思います。

 

 

なお、わたしなんかの感想ブログよりも、下記のような記事を読むと、この本の主張がより分かるので、紹介程度に。

www.shinchosha.co.jp

huyukiitoichi.hatenadiary.jp

 

あと、全然どうでもいいけど、青木薫先生って、女性だったのね…。翻訳された作品を読むと、なんとなく男性をイメージしていたけど。あまり表舞台に姿を見せない青木先生がみれて面白かった。なんか青木先生の本を色々読みたくなった。骨太な本が多いんだけどね…。

www.youtube.com